今年6月下旬から8月下旬にかけて、Fliprは圧倒的な価格パフォーマンスを見せました。2か月前には時価総額が20万ドル未満で、ほとんど注目されていませんでしたが、8月27日には時価総額が一時2,400万ドルまで急騰し、2か月で100倍超、8月だけで16倍の伸びを記録しました。

では、Fliprとはどのようなサービスなのでしょうか。Fliprは新たな予測市場プラットフォームというよりも、「予測市場へのソーシャルエントリーポイント」です。PolymarketやKalshiのように独立したプラットフォームや専用インターフェースを必要とせず、ソーシャルプラットフォームXに直接統合するというシンプルな仕組みを採用しています。

Fliprとは──予測市場のソーシャルレイヤー

Fliprは2025年7月に正式ローンチされました。最大の特徴は、Xプラットフォーム上で稼働するトレーディングボット「Fliprbot」によるアクセスです。従来の予測市場では、専用ウェブサイトへのアクセス、マーケットリストの閲覧、ウォレット接続、そしてベットという煩雑な流れが必要でしたが、Fliprではこれらすべてを一つのソーシャル会話に集約しています。

X上のユーザーは、@fliprbotをメンションするか、「2025年にドナルド・トランプがノーベル平和賞を受賞するか？」といった自然な文章の指令と、賭けの方向・金額をダイレクトメッセージで送るだけで取引が成立します。ベット情報は即時に投稿としてフィード上に現れ、他のユーザーがコピー、シェア、チャレンジできるイベントとなります。Fliprは「取引」と「投稿」を融合させ、すべてのベットを可視化します。

Fliprは新規参入者の障壁を下げるため、Privyのアカウントシステムを統合し、レバレッジ取引やテイクプロフィット／ストップロス機能といった特徴も導入しています。賭けるためにプラットフォームを切り替える必要がなく、会話の流れの中で自然にベッティングができる仕組みです。さらに、Fliprはグループチャットやコミュニティへの埋め込みにも対応しており、グループ管理者はチャット内で即座にマーケットを作成でき、ユーザーもチャットしながら手軽に賭けることが可能です。これにより、ミームやスタンプ同様、気軽に予測投稿を楽しめます。

こうした設計思想は明快です。従来の予測市場がプロ投機家向けのツールだったのに対し、Fliprは取引を日常的なソーシャル体験へと変革しています。PolymarketやKalshiと正面から競合せず、ユーザーとのエンゲージメントというフロントエンドに注力しているのが特徴です。PolymarketやKalshiは市場の厚みや規制遵守を担い、Fliprは拡散性や可視性を高める役割となり、予測市場セクター全体の補完的なエコシステムを築いています。Fliprは、専門的ベッティングをソーシャル空間全体へと波及させる増幅器の役割を果たしています。

この製品設計がFliprのバイラルな拡散力の源となっています。ベットが共有・コメント・議論可能な投稿となり、意見表明とリスクテイクが同じ場で結びつき、取引の可視性がソーシャルネットワーク全体に広がります。Fliprは従来ニッチだった予測市場を、バイラルコンテンツへと昇華させたのです。急成長の原動力は、この拡散性にあります。

7月7日、FliprはMindshare Miningキャンペーンを開始し、6週間で合計1,000万FLIPRトークンを参加者に報酬として配布しました。

Fliprは、一般的な「トレードマイニング」が単に取引量を基準に報酬を与えるのとは異なり、ベッティング活動とソーシャルエンゲージメントを融合した、高度なスコアリングシステムを設計しています。ポイントは5つの指標で算出されます。取引量が多いほど高得点になる基本ルールだけでなく、「投稿タイミング」にも重みがあり、週初の投稿には高い加点が与えられて先行者を優遇します。連続投稿も報酬対象となり、スパム防止のため過剰投稿には減点措置を設けることで、低品質コンテンツがコミュニティを乱さない仕組みです。そして最終的には、「いいね」やコメント、シェアなどのユーザーエンゲージメントが直接スコアに反映されます。

予測市場の概況とFliprの将来展望

Fliprが急成長しているのは、現在の予測市場セクターの文脈を考えれば自然な流れです。過去1年でPolymarketとKalshiが予測市場のスケールと可能性を証明してきましたが、いずれもトークンを発行していないため、投資家が集中できるアセットがありません。その結果、リスク志向の資金が話題性とストーリー性を持つ低時価総額プロジェクトであるFliprに流入しています。

予測市場への注目はさらに高まっています。Polymarketの2024年累計取引高は90億ドルを突破し、米大統領選の月間取引高は26億ドルに達してクリプト予測市場のリーダーとしての地位を確立しました。KalshiはCFTC認可を受けて規制対応を急速に進め、2024年に20億ドルの取引高を記録し、2025年の資金調達後には評価額20億ドルとなりました。この2年間で、予測市場は実験的なものから急成長するニッチセクターへと躍進しています。

Fliprは公式にPolymarketとの統合を完了、まもなくKalshiとの接続も予定しています。流動性や規制対応での競争よりも、Fliprはフロントエンドのユーザー体験を重視。Xプラットフォームには1億5,000万人のデイリーアクティブユーザーが存在し、すでにイベントや感情表現の中心となっています。ここに予測市場をシームレスに重ねることで、Fliprは参加障壁を大きく引き下げています。PolymarketやKalshiにとって、こうしたソーシャルレイヤーはこれまでにない重要なピースとなる可能性があります。

さらに、Ethereum共同創業者のVitalik Buterin氏は、予測市場の有用性を繰り返し公に強調しています。ここ2年間にわたり、Vitalik氏は予測市場が「情報精度」や「認知是正」に果たす役割を強調してきました。トークンガバナンスでは誤選択でも大きな害は出ませんが、予測市場では誤判断が実際の損失につながります。この仕組みにより参加者は合理的意思決定を迫られ、市場がはじき出す確率がメディアの感情論より的確になる場面が多いのです。Vitalik氏自身、SNSの感情的な波に流されずに済み、重大イベント発生時には現実的な警告を得られるため、予測市場が自身の冷静さ維持に役立っていると述べています。これを、集団合理性を高め、ブロックチェーンのオープンガバナンス理念とも合致する「社会的テクノロジー」と位置付けています。

また、Vitalik氏は予測市場の実用性と今後への提言も積極的に発信しています。現状の多くの予測市場は利息報酬がなくヘッジ手段としての魅力が低いが、これが解消されれば新たなヘッジ需要や取引量の急拡大が見込めるとしています。さらに、AI×予測市場によるコミュニティファクトチェックやDAO仲裁、自動マーケットメイキングといった新ソリューションも構想しています。たとえばXの「Community Notes」に予測市場を組み込み、AIやマイクロベッティング報酬で真偽検証を加速することも想定されています。Vitalik氏は、予測市場とCommunity Notesこそ2020年代を代表するソーシャル認知技術であり、参加者全員によるオープンな運用で分散型ガバナンスに貢献する核心的存在と捉えています。

Fliprの最大の課題は、この短期的な盛り上がりを持続的な成長へと転換できるかにあります。Mindshare Miningインセンティブ終了後、新たな仕組みがなければアクティビティ低下のリスクもあります。今後Kalshiとの統合が実現すれば、Fliprは米市場対応のソーシャル型予測取引フロントエンドとして新たな成長フェーズに入るでしょう。

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